スペシャル対談 | 石川森生氏×E-GrantCOO北川対談「勝てるECとCRM」

右肩上がりに成長を遂げるEC市場において、いま改めて重要視されているのがCRMである。

しかし本質的な、「顧客との関係値構築」とは反してマーケティングテクニックとしてのCRMが発達し、D2Cというパッケージの下で顧客ではなく数字だけを見つめるビジネスが生まれては消えていく。

そこで本連載では、SaaSプロダクトである「うちでのこづち」を通じて700社を超えるECCRMの支援を行ってきた株式会社E-Grant代表取締役COO北川健太郎と、DINOS CORPORATION・D2C家具のKanademonoなど様々なD2C企業で顧客と向き合い事業再編を行ってきた 石川森生氏との対談を通じて、今改めて考える「CRM」と「D2C・ECの未来」についてお伝えさせていただきます。

連載第一回目は、“石川森生氏×E-GrantCOO北川対談「勝てるECとCRM」”についてお話をお伺いいたしました。

TOPICS————————————————————————————————————-
―販売している商品の本当の価値を理解する
―なぜユーザーは軽自動車ではなくゲレンデを買うのか
―CRMは利益の源泉
―予算の大きさと仕事の重要度が紐付では本質的なビジネス理解に追いつけない
ビジネスを拡大しようとするなら新規獲得よりCRM!
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1.販売している商品の本当の価値を理解する

北川:石川さんの数多くの経験から、商品に左右されずに勝てるECと勝てないECの違いはズバリなんだと思いますか?

石川氏:結局は、そのビジネスが存在する価値があるのかというところが最も大切なところだと思っています。
モノを売るというのは、お客様にとって買うということが一つの目的になっている側面もありますがその多くは、「買ったモノを使っていかに生活を豊かにしていくのか」というところが目的にあります

一般論としてよくあるドリルの話しを例に挙げると、「ドリル買う人はなにが欲しいですか?」という質問に対して、実際はドリルなんてなんでもよくて、その先の「壁に穴が欲しい」し、もっと言えば「壁に開けた穴を何に使いたいのか」というところが答えになってきます。

そのうえで「あなたは何を売っているの」という問いに対しては、「ドリルを売っている」んだけど、価値としては「ドリル」を提供しているわけではないんですよね。

顧客も「超かっこいいドリルが欲しい」というわけではなく、その先の「新しい生活を手に入れたい」からドリルを買っている。この話は割とすべてのプロダクトに共通する話だと思っています。

2.なぜユーザーは軽自動車ではなくゲレンデを買うのか

 

 

北川:なるほど。ECにおいては商品のコモディティ化も進んでいるなか、どのような視点でブランドの価値を高めていけばいいとお考えですか?

石川氏:「そのビジネスが存在する価値があるのか」が勝敗の分かれ目だと考えた時に、「自分たちが提供するプロダクトを買う本質的な理由がどこにあるのか?」を正しく理解できているかどうかが重要になってきます。

もしモノを売った先を理解していないと、商品としての差別化をするしか未来が無くなります。
コモディティ商品での差別化は究極「価格」か「納期」かしか差別化要素が無く、とんでもなく身を削る未来しか待っていません。

「価格」と「納期」を競争していくと、0より下が無いので誰かが究極そこまでやったら終わってしまい、必ず行き止まりになってしまいます。
なので同じ商品を販売しているにしても、お客様が求めている本質的な価値を理解したうえで「トータルで見た時に”ここで買ったほうが良い”という判断をしてもらえるかどうか」が最終的な分かれ目になるんですよね。

自分はリテラシーが高いので、1円でも安く商品を買いたいんだというのであればそういった体験を求めればいいですし。
ただ、そういった顧客が全員ではないと思うんですよね。

例えば車とかであればそういった話しがわかりやすいと思うんですが、モノとしての車であれば、究極”軽自動車”がベストであって、”早いし”・”軽いし”・”安いし”モノで見た時の車であれば、みんな”軽自動車”が合理的なはずなのに、みんなゲレンデ乗りたいというわけで(笑)

結局、”モノ”にはその後ろ側に何かがくっついてくることがほとんどなわけで、販売をしていく際にそこまで理解できるかどうか分かれ目になってくる。
そうすると、おのずとCRMの話しになってくるじゃないですか、「買った人は何を求めているのか?」ってCRMの議論の始まりですよね?
なのでそこが見えている企業が最後は勝つんじゃないでしょうか。

3. CRMは利益の源泉

北川:ありがとうございます。CRMというワードが出てきましたがCRM的な部分でのお話しも詳しくお聞きしたいのですが。
いままで、様々な側面で企業に関わられてきたご経験の中で、企業が成長していくという文脈から、CRMというものをどのように捉えていますか?

石川氏:基本的に、ECってリテンションで食っていくんですよね。だからCRMとはなんぞやという話しでいうと、端的に言うと利益の源泉です。CRMがうまくいっていないのに利益が出るというのは、基本的にはあり得ない。
たとえば、保険とか自動車とかショットで回収でかつ息が長い商材であれば、マーケティングコストで数百万CPAにかかったとしてもペイできるというものはあります。

しかし、基本的に初回コンタクトでマーケティングコストがすべて回収できる商材というのはほぼないんですよね。
単品通販以外のモデルだったとしても、初回コンタクト時は赤字なんですよ。
なのでそこを回収しなきゃいけないというところが根底にあるので、CRMをやらないとそもそも事故なんですよ(笑)

4.予算の大きさと仕事の重要度が紐付では本質的なビジネス理解に追いつけない

北川:まさにおっしゃる通りだと思います。(笑)
現状、僕たちもCRMを啓蒙しているが、とはいえCRMの重要性については、蓋を開けてみると「新規売上1:リピーター売上9」と当然リピーターの売上大事ですよねという話しをしても”?“な人たちがいて、
それってマーケティングの獲得方法だけで会社が成長していると捉えている方々が、一定数いらっしゃるからだと思うんですね。
そういった課題もある中で、何がどう変容していけばCRMというものが根付いていくとおもいますか?

石川氏:新規獲得系の仕事のほうが、華があるというのはあるかもしれませんね。
ビジネス理解が追い付いていないと予算の大きさと重要性が連動してしまう。

例えば、年間何十億円の予算を回しているチームがあったとして、まあでかい仕事なわけですよね?
だから自分たちの仕事に意味があるとなるわけだし、経営からも予算の大きいところのチェックって当然行わなければならないから、議題に上がることも多くなってしまうんですね。
そうなると、予算の大きさと仕事の重要度というところがわりと紐づいちゃっている気がしています。

また、これが代理店の構造と紐づくんですけど、代理店もCRMなんて狙いに行かないじゃないですか(笑)
めちゃくちゃ面倒くさいのに、お金にならないから(笑)
それでいうと、そこも重要度に影響してサイズも大きいから外部からもちやほやされる。
なので1から組み立てていない人間からすると気づけないんですよね。

まずは一旦、その業界構造とか予算と会社の収益との関係というところが、ちゃんと紐づいていないとわからないんだと思いますね。

5.ビジネスを拡大しようとするなら新規獲得よりCRM!

北川:まさにその通りだなと思います。代理店さん等ともお付き合いあると思うんですが、CRMの市場に入ってこないんですね(笑)
ビジネスとしてキャッシュポイントがわかりませんみたいな、それはそうだよなとおもうんですね(笑)ツールを作るか、コンサルか制作かみたいなそれを担いでもあんまり収益にもならないしなと。
ただ、そういった市場観・業界のなかで、事業者側・支援事業者側それぞれ今後どうなってくると思いますか?

石川氏:それでいうと、D2Cの文脈で特にベンチャーに正しく理解され始めてきていると感じています。
D2CとCRMの話しは結構リンクするなと思っています。
ECであってもD2Cであっても、経営視点ではCRM・リテンション、ロイヤリティーを高めていく活動が生命線だよねという結論は変わらないです。
もっというと、ロイヤリティーが高まる仕組みCRMが回ると限界CPAが上がる、
つまり新規獲得のボリュームがもっと取れるようになります。

だから、ビジネス拡大を急ごうとすると「一気に新規に突っ込んで拡大する」という選択肢もあるんだけど、実はそんなことしなくても、CRMをきれいに回してLTVを伸ばせば利益構造が改善しているはずなので、ビジネス構造上やる前と後で限界CPAが倍になる可能性もあるわけじゃないですか。

なのでちゃんとそれがケアできると、どっちを先にやるかという選択においては、どう考えたってCRM側を先にやるほうがビジネスの成長速度が早いんですよ。

北川:ありがとうございます。確かにベンチャーにおいては、ビジネスの成長を考えるとCRMも新規と同様に注力していくという考えは少なからずスタンダードになりつつあると私も捉えています。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は、石川氏から見るD2Cとその未来についてお届けいたします!
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<連載企画:石川森生氏インタビュー その他記事はこちら>

▷第二回“石川森生氏×E-GrantCOO北川対談「石川氏から見るD2Cとは」”
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